ART of book_文庫随想

『パンツが見える。_駅の上り階段は要注意』

チラリズムって、不謹慎ですか?

駅ホームの階段もしくはエスカレーターを上る際、こんな経験をしたことはありませんか?

目の前を歩く人もしくは立っている人が女性で、しかもその女性は短めのスカートを履いています。
目のやり場に困るなぁ、と思っていたら、手にしているバッグを女性がスッと後ろに回すのです。
あたかもパンチラを防御するかのように。

この時、「目のやり場に困っていたので助かった」と思うか、
「覗き魔もしくは痴漢と思われるなんて心外だ」と思うかはその人次第でしょう。
(もしくは、「残念!」と思う人もいるかもしれません)

私の場合は、一番最初のケースに当てはまるのですが、ついついこんなことを考えてしまいます。

どうして、パンツが見えてしまうかもしれない恰好をわざわざ選んで電車に乗るのだろう……と。

もっとも階段の上り下りの際に、本当にパンツが見えてしまうことはまずありません。
強烈な突風でスカートがめくれ上がらない限り。
なので、バッグで隠さなくても見えてしまうことはないのです。
羞恥心からなのか、それとも後方の人に対しての心配りなのか……。

そんなことを考えながら階段もしくはエスカレーターを登るのですが、登りきった途端にその答えの出ていない思考は中断されて日常へ引き戻されてしまいます。
だから、どうして彼女たちが短いスカートを履いているのか、いまだに理解できていません。
きっと「カワイイから履いているだけ。変な目で見ないで」といったところでしょうか(でもそのカワイイは、実は幼い頃から男性の価値基準が刷り込まれたものなのかも……きっと、たぶん、そう)。

書店でこの文庫のタイトルを見たとき、ひょっとしたらこの未解決の難題を解き明かしてくれているかもしれないと期待したのです。

ひところは、ズロースが一種の貞操帯として理解されていたことを、指摘した。そして、そんなズロースを、女給たちは一般成人より、ずっと早い時期にはきだしている。(中略)貞操帯めいたものを着用することで、男の好奇心を、よりいっそう刺激する。障害を設けることで、男の突進欲をかきたてる。(中略)エプロンは、ズロースによる和装美のみだれを隠蔽したかもしれないと、さきに書いた。ならば、エプロンという外被から、内側のズロースへ想いをはせた客も、いただろう。ズロースを連想させる記号的な役割も、エプロンははたしていたかもしれない。この奥には、貞操帯があるのよ。どう、そそられるでしょう、と。

(P215)

しかしこれは、男性からの視点。
女性は男性からの視線を十分に分かっていて、効果的にスカートを履いているのかもしれません。
それでもやっぱり、男性の目は関係なく自分がカワイイと思うからスカートを履いているという女性も多いでしょう。

ただここでひとつ考察できるのは、スカートだろうが何だろうが、女性が身体のラインを隠すどんな衣服を着ようが、男性はその逞しい想像力によって突進欲が掻き立てられるいうことです。
パンツが見えそうで見えまいが、もはや一糸纏わぬ裸だろうが宇宙服を着ていようが、男の突進欲は刺激されるのです。

だったら短いスカート履こうが履くまいが、関係なくない?

だれか女性の学者さんで、『パンツを見せない』というタイトルで女性からの視点でパンチラについて書いて下さい、ぜひ。

興味本位がすばらしい結果を生む、かも

さて、実はこの文庫のハイライトはあとがきにあります。

私は、今、自分のやっていることを興味本位の作業だと、言いきった。しかし、大学人で、そうあけすけに書ききる人は、少なかろう。(中略)多くの研究者は、学術的な粉飾をこころみる。興味本位に見えそうなところを、極力隠蔽する。そして、自分の仕事は、かくかくの意義があると、とりつくろう。それが、学者渡世の一般的な流儀になっている。(中略)学界での不興をおそれ、偽装工作に腐心する。事実の探求より、学界での世渡りを優先する。そんな小心翼々とした姿勢が、はたして学問的だと言えるのか。好奇心につきうごかされてすすむことこそが、ほんらいの学問だったのではないか。

(P459)

大学の学士論文のテーマに、脚フェチの視点から古今東西のヴィーナス像について論じようと思ったのですが、担当教授に「そんなこと誰も言ってません」と一蹴されたことを思い出しました。
誰も言ってないしどこにも書かれてない。
だからこそ脚フェチを正当化する論文を試みたかったのです。
そう、好奇心につきうごかされて。
老後の研究項目として大切に心であたためておくことにしておきましょう。

というわけで、好奇心という名の妄想が掻きたてられた一冊。

『パンツが見える。 羞恥心の現代史井上章一/新潮文庫

昭和の漫画って、ミニスカートでパンツ見えてたよね。

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