ART of foods_おふとりさま

蒙古タンメン中本_食後にしろくま食べたい

ひとは、どうして無理して辛いものをたべるのか

どうして人は辛いものを食べるのか。それは、言うなれば山登りに近いものかもしれません。と、いっても、マロリーの言った「そこに山があるから」的なものではありません。辛い食べ物が目の前にあるから食べたくなるというわけではないのです。

ハイキング程度の登山でも、頂上に立った時の達成感は、何物にも代え難いものです。それと同じく、辛いものが載った器を、いかにして空にするかの戦略を立て、食べ切った時の達成感を得るために人は辛いものを食べるのです。

大食いでもいいではないかと言われそうですが、それはダメ。胃袋には物理的な限界がありますから。攻略するものの量ではなく、質なのです。攻撃的(=激辛)であればあるだけ倒し甲斐があるもの。そう、辛いラーメンを食べることは、山に登らずして同じだけの達成感とやや少ない汗をかくことができるのです。

そんなわけで、中本で一番辛そうなメニューに挑戦です。

それでは、おふとりさまです。

その名も北極ラーメン 830円。

白銀の世界を思わせるネーミングですが、ミルクたっぷりの真っ白なスープではなく、赤道を思わせる真っ赤なスープです。

まずはもやしと麺をしっかり掻き混ぜて、スープに絡ませます。

辛い食べ物は、熱いとさらに辛さが増したように感じるので、ちょっと冷ましてから食べるとよいのでしょうが、ラーメンは熱々だからこそおいしい。麺ものびるし。

そこで今回、淡々と麺と具だけを口に運ぶ、という何のひねりもない作戦で攻略することにしました。
もちろん、エプロンはかけています。

肝心なのは、淡々と食す、というこの点にあります。
辛いことを表情に出したり、先日の隣のサラリーマンのようにうめき声を上げたりしたら負けです。
誰に負けるのか? それはお店かもしれないし、隣でワンランク下の(辛さ的に)蒙古タンメンを食べている客かもしれないし、それこそ自分自身かもしれません。
とにかく、平然と食べきるのです。むせるなんて、もってのほか。
澄ました顔で完食し、最後にコップ一杯だけ水を飲んで席を立つ。できることなら、先に席に座ってラーメンを食べている隣の客よりも早く完食すること。辛さ平気自慢は、食べるスピードに比例します。

確かに辛い。
しかし、絶望的な辛さではありません。
絶望的な辛さで、これまで体調まで悪くなった料理は、すべて赤くはありませんでした。
お店のホームページには、“慣れると辛さの奥にある旨みが感じられ最終的には辛さすら感じる事なく「甘さ」を感じ、その時点でこの世界から抜け出す事ができなくなります”とありますが、それは辛いものを食べたときに分泌されるβ-エンドルフィンという脳内麻薬のせい(どうしてβ-エンドルフィンが分泌されるのかは割愛)。

美味しいかと問われれば、美味しくはありません。
なぜならば、辛さが立ちすぎて、その奥の旨味その他もろもろの複雑な味が帳消し(舌で感じとることができない)になっているからです。
激辛の食べ物を口に入れた瞬間、ぱぁっと表情が明るくなって、口元がほころんでしまうような人、見たことありません。まあ、たいていの場合は眉間にしわを寄せて、食事と格闘しているという感じです。
そもそも、辛さを感じる味覚は人間の舌にはありません。つまり、辛いから美味しいということは理屈上成立しないのです。
その意味でも、美味しくはないのです。

では、なぜそんなに辛いものを食べるのか。先に述べたようにそれは完食したときの達成感を得んがため。
そしてβ-エンドルフィンによって引き起こされる快感のせい。

私はといえば、両隣の人よりも早く完食。(勝った!)
達成感の上に快感もともなうおふとりさまでした。

▼激辛をご所望なら、こちらのおふとりさまをおとりよせ。

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