ART of book_文庫随想

『出版業界最底辺日記_下を見ても上を見てもキリがないっ!』

ジャンルは違えど編集者、考えることはみな同じ

2010年の年末、唐突に「来月からROSSOを担当するように。これは社命なので選択の余地はない」という超無謀なミッションを言い渡されたのですが、そのときに脳裏に浮かんだのは、「これは面白いルポルタージュが書けそうだ」というものでした。

それから2017年のこれまた唐突な部署移動命令まで、社会常識ではありえないエピソードがたくさん。そのうちルポルタージュとして作品にしようと思っていたのですが、実名だと角が立つし、偽名にしてフィクションにした方がいいのかなー、なんて考えていたら、こんな文庫に出会ってしまいました。

まさに、先にやられた! という感じ。

エロ漫画編集者の日記という体なのですが、忖度なく実名(ペンネームや愛称含む)で人物は登場し、辛口の文章だからこそ、当時の業界のことがそのまま伝わってきて面白いのです。

しかも、私がかつて9年間在籍していた二丁目にある出版社も幾度となく出てきます。ちょうど私が在籍していた時のことも書かれているので、そういえばあの当時、会社の偉い人が都庁に呼び出し喰らってたなぁ、と。

もちろん私はエロ漫画編集部ではなく、車雑誌編集部でしたけど。

そんなリアルで身近な人物や漫画雑誌、印刷所が登場するので、それもまた面白く、一気に読了してしまいました。

読書の悲しき性

ビリー・ワイルダーやモーム、谷崎潤一郎や深沢七郎の作品群は、味わっているうちは至福の時だが、その後は一挙に不幸に。「また残りを一作品減らしてしまったか……」との後悔の念で。

(P140)

著者の塩山芳明氏は読了した本のことも日記に書いているのですが、この一文は本当に共感できます。

自分も気に入った作家ができると、集中してその人の作品を読み漁るのですが、一冊読み終えると、満足感よりも寂しさの方が募ることがよくあります。

一度読んだ本は、余程のことがない限り再読することはありません。だから、楽しさがひとつずつ失われていく気がするのです。

こんな気持ちになるのが自分だけでないということが分かって、ちょっと嬉しい気分。

塩山氏は読了した本だけでなく、書店(古本屋含む)を訪ね歩いた感想も書いていて、またそれも面白いのです。

いまは改装されてしまってなくなった、渋谷PARCOの地下にあった書店なんて、バッサリ切り捨てられてます。確かに、スカした書店ではありました。いまなら代官山にあるあの書店なんかも、バッサリやられちゃうだろうなぁ、とか妄想するのもまた楽しいのです(出版社別に文庫が並んでいない時点で、アウト!)。

ふっと大塚の「ブック・オフ」へ。1年程前に来た時は、駅近くの店舗にもかかわらず、掘り出し物が100円棚にゴロゴロ。今回はサッパリ。

(P305)

かくいう私も、この文庫をブック・オフの100円棚で見つけ出しました。しかも20%オフ。なかなかの掘り出し物だったと思います。

ちなみに、映画をたくさん観て、読書できる時間があって、さらに古本屋や書店をめぐる時間があるってだけで、文化的生活が送れている証拠。24時間365日仕事漬けの社員編集者のほうがよっぽど最底辺です。薄給なだけになおさら。『出版業界最最底辺日記』、noteで書いちゃおうかな……。

というわけで、私と仕事で関わった方達で、実名はちょっと……という人は、事前にお知らせくださいませ。

やっぱり、学生運動盛んなりし頃に大学生活を送った人たちって、理論武装はできてるなぁ、と思った一冊。

『出版業界最底辺日記 エロ漫画編集者「嫌われ者の記」塩山芳明/ちくま文庫

校了後の夜明けの新宿の景色を編集部から眺めたのでしょうか? 同じような体験、幾度経験したことでしょう。

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