ART of book_文庫随想

『平気でうそをつく人たち_自分、性善説派なんですけど〜』

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認識するために名前がある

ふたりの息子たちが幼かった頃、保育園のお手伝いで多くの子どもたちと接する機会がありました。知らない子どもたちと話すのは、脳が刺激されてとても楽しいものです。思わず突っ込みたくなるようなスケールの大きい盛った話も、まぁ、幼い子どもの話として話半分で聞くぶんには面白いものです。想像力のたくましい子だなぁ、と。

この他人の子どもに接する機会が多かった10年近くの間に、自分の頃とは取り巻く環境が大きく変わったんだな、ということも知りました。

たとえば自分が幼い頃だったら、「ちょっと活発な子」とか、「ちょっと元気な子」と呼ばれるだけで、たいして気にもかけなかったであろう子どもが、いまは「ADHD」とか「多動症」とか診断されてしまうことを知りました。子どもってそんなもんだ、と思っていただけに、ちょっとショックでした。わざわざ病名付ける意味があるのかな、と。

しかし、それが浅はかだったいうことを思い知りました。

「しかし、この議論は、治療法や治癒の例がないにもかかわらず、ためらうことなくわれわれが病気と呼んでいる数多くの障害がある、という事実を無視した議論である。多発性硬化症や知的障害などがそれである。われわれがこうした障害を病気と呼んでいるのは、おそらく、いつの日かこれと戦う手段を見いだすことを期待しているからだと思われる(p242)」

なるほど。
名前がなければ認識することができません。
なんとなく、「こんなカンジ」ではなく、名前をつけることで、その現象を理解しうるということです。そして立ち向かっていく手立てが考えられるというわけです。

確かに、わが子にそういう性質があるということを認めることができれば、自分の思うように育たないと思い詰めることもなくなるでしょう。それに、そうした子どもたちをケアする支援施設や教室も昔に比べたらはるかに増えています。

活発な子とか、落ち着きのない子、ではなくて、ADHDとか発達障害という名称(病気)があるからこそ、支援できるのだな、と。

サイコパスはすぐ身近に

話は変わりますが、社会に出て働くようになって、自分の意思とは関係なく人付き合いをしなければならないようになりました。そこで平気で嘘をつく人がいかに多いか、驚かされました。どうしてすぐにバレてしまうような嘘をついてしまうのだろう、と。
やっていないことを「やりました」とか、できないことを「できます」とか、そんな条件反射的ウソ、小学生でもちょっと考えたらその後の結末がわかるようなものです。

しかし、こんな嘘はまだ可愛い方。すぐにバレてしまう部類だから。面倒なのは、もう少しそれっぽい御託を並べる類の嘘です。そうした嘘に共通しているのは、自らを良く見せようとするところにあるように思っていました。そして、そういう類の嘘にまみれている人は、たいていの場合、人当たりがいい。そして口達者、一見魅力的。これは、転入生を何度も経験して自ら導き出した法則です。この本を読んで、その個人的な法則が間違っていないということに確信を得ました。というか、そのものズバリが、この本には書いてあるではないですか。やはり、そうだったのか……。私の危機察知能力は正しかったのです。

……が、先ほども書いたように、仕事だと自分の意思とは関係なく人と付き合わなければなりません。そして、そのなかにやっぱりいるのです、いわゆるサイコパスが……。

プライベートならば、サイコパスな人とはなるべく関わらないようにしているのですが、仕事だとそうはいかないシーンも多々あります。そうすると、性善説派である自分の場合、ついつい付け込まれちゃうのです。もちろん、付け込まれても大丈夫なだけのマージンは持ってお付き合いするのですが、いろんな負の連鎖に巻き込まれることも多々あるのも事実。結果、疲れてしまうのです。編集という、人と人を編む仕事をしていると……。

「私が邪悪と呼んでいる人たちの最も特徴的な行動としてあげられるのが、他人をスケープゴートにする、つまり、他人に罪を転嫁することである。自分は非難の対象外だと考えている彼らは、だれであろうと自分に近づいてくる人間を激しく攻撃する。彼らは、完全性という自己像を守るために、他人を犠牲にするのである(p134)」

かくいう私も、普通の味の料理に対して「おいしい!」と言ってみたり、それほどでもなくても「カワイイ!」と言ってみたり、その場を円滑に進めるための軽い嘘は、しょっちゅう……。その意味では、ヘーキでウソ、つきまくってますけどね。

嘘つきは泥棒の始まりとは、よく言ったものだと思った一冊。

『平気でうそをつく人たち:M・スコット・ベック/森 英明訳』

マグリットの絵のような……。嘘をつく人は空っぽという意味???

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