チェーン・リーディング
読書は連鎖です。
たとえば、文庫本の巻末にあるな既刊本の案内などで気になるタイトルを見つけたとします。
試しに1冊読んでみたら面白くて、その著者のほかの作品を読んでみたくなることがあります。
しばらくはその著者の本を優先的に読書することになるので、何を読もうか悩まなくて済むことになります。
気になるテーマの文庫本に出会ったときも同じです。
その関連書をしばらくは読み漁ることになるので、しばらくは読みたい本が枯渇することはありません。
そもそも、こんなことがよくあるために、すでに購入していた文庫本が後回しになり、積ん読になってしまうこともよくあります。
『家畜人ヤプー』のなかで、明らかに星新一氏の『ボッコちゃん』をモチーフにした場面がありました。
小学高学年から中学生にかけて、文庫本も含めてほぼ読み終えた星新一氏のショートショート。
『ボッコちゃん』、シュールな内容だったよなぁ……と懐かしく、再読してみたくなって書店に行くと……。
なんと、これまで全集などに収録されていなかったショートショートだけを集めた文庫本が発売されていました。
『ボッコちゃん』はスルーして、こちらの本を思わず買ってしまっておりました。
いろんな媒体に発表された星新一氏のショートショート。
それらが散失してしまっていたのは、それなりの理由があります。
つまり、全集に入っている作品と比べると作品としての「キレ」が足りないのです。
小学生向けに最初から書かれたものや、特定の企業向けに書かれた作品も多く、いわゆる万人受けの「普遍的ショートショート」ではないことも理由にあります。
習作のような雰囲気もあります。
監視社会を予見したショートショート
とはいえ、そのなかで気に入ったのが、「ビデオコーダーがいっぱい」。
1965年にソニーのPR誌で発表された作品です。
刑事が泥棒の行方を捜査していくうちに、ビデオコーダー(今でいう録画用HD)のいろいろな使われ方を暗に紹介するというストーリー。
つまり、ビデオコーダーが普及すると、こんなにも役に立ちますよ、ということを紹介しているのです。
この点、クライアントであるソニーの意向を十分に汲んでいると言えます。
しかし、そこは星新一氏。たんなる提灯には終わりません。
ビデオコーダーが普及すれば普及するだけ、市民は知らぬ間に監視されるということが仄めかされています。
ん? これってまさに現代の世の中ではありませんか。
街中にカメラが設置され、しかもだれでもスマホで動画を撮れる時代。
プライバシーなんてどこにもありません。
1965年当時だと、記録用のメディアはテープが最先端。
作品の中では、ビデオテープが登場します。
まさか、いまのような記録メディアになろうとは、予想できなかったでしょう。
しかし、だれでも映像を撮れる時代になればどんな問題が起こるのかを見事に予見しています。
さすがです。
とはいえ、自撮りでたくさんの人が死亡する世の中になるなんて、星新一でも予見できなかったであろうという1冊。
『つぎはぎプラネット』星新一/新潮社文庫