グラスの底に顔があってもいいと思いますよ
幼い頃、といっても幼稚園〜小学生の時ですが、岡本太郎の「顔グラス」を愛用していました。
キリッとした顔と、おめめパッチリの2種類あって、たぶん2個ずつ(以上)あったのですが、割れたりしたのでしょう、気がつくとそれぞれ1個ずつになっていました。
岡本太郎を身近に知ったのは、このグラスから。ゲージュツ作品のグラスで飲んでいる、というのもたまらない快感でした。
少し大人になって、それがウイスキー(ロバートブラウン)のノベルティだったことを知りました。
息子二人の父親になった今わかるのですが、ノベルティの言ってみればタダのグラスですから、私の親にとっては割れても痛くも痒くもなかったのでしょう。子供は顔に反応しますから、ちょうどよいグラスだったのかもしれません。
ある時、その大変気に入っていた顔のグラスを、実家からわが家に持ち帰ろうと思ったのです。しかし、引っ越しの際か、もしくは割れてしまったのか、実家の戸棚からいつの間にかなくなっていました。
岡本太郎のフィギュアを手に入れるたびに、「ああ、あのグラス、どこにいっちゃったんだろうなぁ」と考えていたのですが、そもそもいつ頃のノベルティだったのかを調べてみようと、ついうっかり週末の深夜にググってしまったのです。
「岡本太郎 グラス 顔」で、検索
すると、画像もたくさんヒット。
写真を見たくて、あるひとつの元箱と一緒に写っている画像をクリックすると、それはメルカリのサイトでした。
ミニカーなど、コレクションするだけの趣味のものは、これまでネットでは絶対に手を出さないという自分だけの決まりを設けていました。もしその縛りがなくなれば、常にヤフオクをはじめ、海外サイトのオークションその他、常にネットの情報を気にしなければならないからです。
モノを手に入れるために、ネット情報に束縛されるのはごめんです。
それと、モノとの出会いは一期一会だと考えていたからでもあります。ご縁があれば、欲しいモノともどこかで必ず出会えると信じていたのです(つまり、無駄遣いをしないようにという自分への戒めなんですが)。
話をメルカリに戻しましょう。
家族が利用しているメルカリに、なんと元箱入り新品未使用が2個セットで5000円で売りに出されているではないですか。
もともとノベルティでタダでしょ? それを1個2500円って……、と思う人もいるでしょう。
しかし、これ、岡本太郎が生きていた時代に、確かに彼が手がけた作品だという見方をすれば、2500円なんて安いもの。
数年に一度はうっかり割ってしまって2個セットを買い足ししているボダムのダブルウォールグラス450mlの2個セットだって正価で5000円ちょっと。アンティークだと考えれば、安いものです。
さあ、どうしたものか。メルカリは使ったこともありません。
わが家は書斎以外、寝静まっています。
妻を起こして、「メルカリで落としてくれ!」と頼むわけにはいきません。
朝まで待つか……。
いやいや、その間に売れてしまうかも。実際に、「3500円に値引きできませんか?」というコメントも残っています。出品者が「値引きは一切考えてません」と答えてくれたおかげで、たまたま売れ残っていただけかもしれません。
事態は緊急を要している模様です。
深夜の書斎で気がつけば、メルカリに登録してしまいました……。
そして、「購入する」ボタンをクリックしてしまいました。
クレジットカード決済を選択していたからか、あっけなく購入。
やり遂げたという充実感に包まれて、幸せな気持ちで眠りについたのでした。
メルカリではじめてのお買い物
翌日、メルカリでその後の手続きを息子と妻に簡単にレクチャーしてもらい、私用で都内へクルマで向かっているとき、メルカリから連絡が……。
「メルカリははじめてですか?」という出品者から問い合わせでした。
「初めてです、ネットで検索していたら、偶然見つけてしまいましたので購入させていただきました。幼い頃に使っていたグラスでして、長年探していたものです。新品でしたのでその場でメルカリに登録して、購入させていただいた次第です。メルカリのルール等わかっておらず、至らぬ点がございましたら、ご指摘頂けると幸いです。よろしくお願いいたします」
と、まあこんな内容のメッセージを返信しました。その後、出品者さんからもどってきたメッセージでは、プロフィール登録をしておらず、出品をひとつもしていない人はトラブルも多く、それを心配なさっていたようでした。
親類が大切に保管していたものとのことで、私のように思い入れの強い人のところに行くのは嬉しいとのことでした。手に入れたこっちの方が何十倍も嬉しいですけどね!
待つこと数日。
この待ちわびる時間がなんと多幸感に包まれていることか。
おもわず口元がほころんでしまうのです。
手に入れてこれほど嬉しいと感じたのは、この頃だとラミーサファリのオールブラック(ローラーボール)を買った時以来です。
20数年振りの再会に乾杯
大学を卒業して実家を出ましたが、その頃までは実家にあったように記憶している顔のグラス。ということは、20数年振りということになります。
そのおめめぱっちりのグラスがなんと新品でわが家にやってきました。
ひとつは、私らしくないのですが保管用として。
もう一つは、アルコールをロックで飲む時ように。
幼い頃、カルピスを始めとしてソフトドリンクを飲むときに使っていた岡本太郎のグラス。
いつか、ロックでウイスキーを飲んでみたいと思っていたのですが、ついにその念願が叶うときが訪れました。
ウイスキーは、家での定番であるシーバス? バランタイン? それともボウモアにしちゃおうかなー。そんな妄想だけでなんと幸せか。とにかくスコッチ派なので、スコッチと決めておりました。
いや、待てよ。そもそもこのグラス、ロバート・ブラウンを買った人へのノベルティ。
ロバート・ブラウンを注いでこそ、顔のグラスは完成するのです。
ということを思いつき、表参道で友人と飲んでいるときにamazonでお取り寄せ。
調べてみると、ロバート・ブラウンの瓶は、日本のお寺の釣鐘がモチーフだそう。なんか、いきなり親近感わいてきました。しかもつくられるのが、富士御殿場蒸留所だなんて、いつも取材で通っているところ。ますます身近な存在に。
冷たいほうが甘みを感じるということなので、迷わずロックで。
はじめて口にするロバート・ブラウンは、洋モノかぶれしていた自分に喝! な味でした。
エビアンとかボルヴィックとかコントレックスを飲むのがオシャレに感じていた大学生の頃の自分を思い出して、ひとり苦笑い。
いまでは富士山麓をはじめとする日本産ミネラルウォーターでいいじゃないか、という境地に達しております。
つまり、輸入されたスコッチもいいけど、ロバート・ブラウンでもいいじゃないか! と思えるテイストでした。
またまた話が逸れました。
とにかく、嗚呼、何という幸福感。
歳をとると若い頃の思い出に浸って幸せを噛みしめるものですが、このグラスでロバート・ブラウンを嗜むと、幼い頃の記憶とリンクして、シルクの布で頬を撫でられるようなうっとりした気分に酔うことができるのです。
もうこれは、キリッとした方の顔(ノベルティ第1弾グラス)も手に入れるしかないようです。物欲魂の発動です。
追記
実際に顔のグラスでウイスキーを飲んで気がついたこと。
①幼い手には大きく感じていましたが、大人になったいま手に取ると、記憶の中の大きさよりひとまわりか、ふたまわり小さい感じ。
②むかし、スプライトをこのグラスで飲んでいたときより、「顔」が遠くに感じるのです。むかしはもっと身近でした。その理由は、老眼のため、グラスに口をつけながら「顔」にピントが合わないということが理由でした……はぁ。。。(涙)