ART of book_文庫随想

『わたくしが旅から学んだこと_ただいま充電中』

“「世界の旅」が終わってから、あるテレビ局の旅番組で外国に行ったことがあるのですが、旅に出る前からすでに現地のコーディネーターが考えたスケジュールができあがっていました。
 行き先も、食事の場所や時間もすべて決定済み。そのスケジュールに従って粛々と撮影、取材は進むのですが、あれでは新たな発見や出会いの喜びがなく、わたくしにはむいていないと感じました。”(P39)

 日本旅行作家協会から訃報のしらせが届いた週末、書棚から引っ張り出して再読しました。そして、自分で取材先を見つけてきて、成り行きに任せて柔軟に取材し、帰国後は自らラッシュ編集してナレーションを書いてナレーション録り……そんな兼高さんの仕事の流儀が私のやり方と近いところがあって、ちょっと嬉しく、そしてあらためて励まされたように感じたのです。

 イタリアでの取材は、いつも現場で即対応。国内での旅企画の取材も、天候や陽の加減で臨機応変に対応。最近は自分で撮影することも多いので、自宅に帰った後には写真の現像(もっともPhotoshop上で)、執筆、そしてラフを引いたり……と、まあまあ忙しい。でも、レディメイドではないので、楽しいのです。現場でのアクシデントもむしろ楽しんじゃうくらいに。

 兼高さんの著書に、旅に持っていくと便利なものが紹介されています。旅慣れた兼高さん自らも、必ず旅に携行しているものです。そのなかで私も真似して必ず持っていくようになったのが、ゴム草履。今で言うところのビーチサンダルです。ホテルで寛げるような取材旅行はほぼないのですが、それでもホテルの部屋に入って素足でビーサン履いてると、気分もリフレッシュするのです。兼高さんの著書にも書いてありますが、シャワーを浴びる時にビーサンを履いたままシャワールームにも入りますし、なにかと便利。今年2月に行ったグランドサークル取材にももちろん持って行きました。

 かつて兼高さんとご一緒した際に、「旅の必携品、参考にして真似してます!」と伝えたところ、「本に書いてあることは、いいところだけ、真似なさってね」という上品なお言葉をいただいたのが、つい最近のような気がします。

 その世界中を旅した兼高さんが最も好きだと言う国の一つがアメリカ合衆国。ちょっと意外だと思っていました。歴史あるヨーロッパや、開発の及んでいない秘境・楽園を期待していただけに。しかし今回、グランドサークルを5日間で弾丸ツアーしてきてその理由がすごくよくわかりました。これまでどちらかというと、ちょっと見下していたアメリカ合衆国(あくまでも旅することを基準として)。しかし、写真や映像で何度も見慣れている景色を自分の目で確認して、脳内イメージを遥かに超越しているスケールに打ちのめされてしまったのです。そして「また訪れてみたい!」と思ったのです。

 メキシコ料理をはじめとして、ジャンクフードも口にあう。キングマンからセリグマンまでの140kmほどルート66を走りましたが、次回はクルマではなくてBD–1で全ルートを走破したいと思ったほどです(いつになるかわかりませんが)。

 グランドサークル弾丸取材には、「追悼兼高かおるさん」という裏テーマができあがってました。スーツケースにはパンナムのロゴを貼って気分もアップ。たぶん、最初にカッコイイなぁと漠然と憧れた企業エンブレムは、BMWでもMacでもなく、この青いパンナムのマーク。観光客がほとんどいないオフシーズンのグランドサークルだったからこそ、圧倒的な自然が直接心に響いたのでしょう。それもまたよかった。

「兼高かおる 世界の旅」の取材で必携だったもの。①手袋 ②ポケットが多いバッグ ③ウインドブレーカー ④英語と仏語の辞書 ⑤プラスチックバッグ(いわゆるコンビニ袋) ⑥アイマスク ⑦世界史の本 ⑧ゴム草履 ⑨スケジュール表 ⑩地図 ⑪取材ノート ⑫ゴムベルト ⑬懐中電灯 このうち、②③④⑤⑥⑨⑩⑪⑬は私も一緒だったので、⑦⑧を真似させて頂く事に。もっとも、④⑩⑬はiPhoneで対応していますが……。

プロペラ機で80時間世界一周にチャレンジした兼高さんとはスケールが違いますが、3500kmほどを5日間で撮影しながらのグランドサークル一周弾丸取材では、ちょっとこれまでの価値観が変わってしまったかも。

“物事が思い通り、計画通りに運ばなかったとき、そのことを惜しみ悔やむのか、人生の休み時間とありがたく受け止めるのか。わたくしは後者のタイプです。
「これも運命だ」と思って去る者は追わない。そのときに逃したからといって、もうダメなのではなく、きっと次が来るはずなのです。”(P28)

こんなポジティブな生き方も、実は私も一緒。なんでもいい方に捉えたほうが人生楽しい! そんな性格なので、人に騙されてしまうこともよくありますが、人を騙すよりもよっぽどいい、と、これまたポジティブに考えてしまうのです。

いまは人生後半戦に向けての充電期間、ということを改めて確認した一冊。

『わたくしが旅からまなんだこと:兼高かおる/小学館文庫』