ART of cycling_二輪書

BD-1で東海道五十三次旧道を行く──府中宿

DAY 2 16:06_府中宿

伝馬町西の交差点。

『東海道中膝栗毛』の著者である十返舎一九の故郷府中に入ると、さすがに交通量が増えてきます。
〈伝馬町西〉を渡ってまっすぐに進むとすぐに〈江川町〉の五叉路に突き当たります。
この交叉点を左に折れてすぐの〈呉服町〉で右折。BD-1を押しながら商店街を歩いて行くと、伊勢丹が見えてくるので左折。ここが「七間町通り」。当時、道幅が七間あったことから、その名がつきました。一間は約1.8m。およそ13m弱の道幅です。

ヨーロッパの古い街を訪れると、こんな石畳をよく見かけます。

現在ここは、沿道に商店街が並び、車道は欧州の石畳風になっています。日本の城下町ですが、周囲の建物との景観には馴染んでいます。石畳から伝わる振動を手のひらとお尻で感じながら先を急ぎます。『東海道中膝栗毛』では、たっぷりとエピソードのある府中宿ですが、彼らのどんちゃん騒ぎに付き合っている暇はありません。

府中ではお大尽気分でお座敷で遊んで散財するふたり。

途中で出会った徒歩で東海道五十三次旧道を散策しているらしき団体。彼らの訝しいものでも見るかのような視線が痛い……。横断歩道はなくとも歩行者優先です。

東海道五十三次旧道を徒歩で散策するツアーもいろいろあるようで……。

先を急いでいるのは、遅いティーブレイクをとるため。
名物に美味いものなしとはよく云いますが、安倍川を渡る前に、安倍川もちを食べようと思っていたのです。以前、BMW i8で東海道五十三次旧道を旅した時、唯一食べたご当地名物スイート(この時も弾丸旅でした……)。ぜひ今回も食べたい! というか、食べることを目的にして、頑張ってペダルを漕いだのでした。

安倍川もちは、駅などでお土産としても売っています。しかし、お持ち帰りして食べる安倍川もちと作りたての安倍川もちでは、まったく別物と云っていいくらい食感が違うのです。それは赤福と一緒ですね。伊勢神宮に行った際に、本店で食べた赤福をイメージしてお土産の赤福を自宅で食べたときの「なんか違う」感と同じです。

お目当てのお店は、「せきべや」。
初めて行ったとき、大学生の頃、ランチに先輩に連れられて行った天ぷら「いもや」を思い出しました。大学の近くにあった天ぷら屋で、先輩に「カウンターに座ったら、おしゃべりしないで食べることに集中すること」と、アドバイスされたお店です。白木のカウンターは恐ろしく手入れが行き届いていて、目の前の厨房も清潔感溢れる佇まい。カウンターしかないのですが、店内の壁には余計なものが一切なく、床もチリひとつ落ちていません。ひとりで寡黙に天ぷらを揚げているおじいさんは見るからに職人気質で、コンロもまわりも素晴らしく掃除が行き届いています。天ぷら屋や中華屋の厨房でよく見る、あの油で薄汚れた感じがまったくないのです。ご飯やお味噌汁などは奥さんが、天ぷらの揚がり具合のタイミングを見て手際よく出してくれます。ご飯は電気炊飯器からよそうような野暮なことはしません。杉のおひつからよそってくれます。
一見の客(たいていは大学生)は、おしゃべりに夢中になって、箸のスピードが落ちます。「いもや」の暖簾をくぐったとき、天ぷらがはぜる音だけが店内に響いている状況を察知できない時点で、空気を読めない残念なタイプです。そんなKYな人に、おばあさんがやさしく声をかけます。「冷めないうちに食べてね」と。しかし、時にその忠告さえ聞けないKYな人もいます。あまりに大声で話しているそんなKYな人物には、おじいさんからの厳しい喝が落ちるのでした……。ああ、コワイ。しかし、そんな緊張感をもって食べる500円の天ぷら定食は、本当に美味しかった。天ぷらは2度に分けて運ばれてきます。揚げたてをどうぞ、という心遣いでしょう。高級な素材ではなくとも、作り手の心意気で、いかようにも美味しくできるという見本のような天ぷらでした。

営業時間内になんとか到着。

安倍川もちの話でした。
初めて「せきべや」に入ったとき、「いもや」を思い出したのです。掃除の行き届いた清潔感溢れる店内。そして注文が入ってからつくりはじめる厨房の無愛想なおじさん。お茶と安倍川もちを運んでくれるおばさん(たぶん夫婦でしょう)。シーンと静かな店内に張りつめた緊張感が、「いもや」と同じ類のものだったのです。
つきたてなのでしょう、やわらかいのに弾力のある食感。甘すぎないほどよさもあって、次々と口に運んでしまいます。きっとお茶は静岡名産のお茶、でしょう。すっきりとした渋みのあるお茶との相性もバッチリです。おしゃべりして食べていると、「おいしいうちに食べな」と注意されそうで、無言でパクパク食べてしまったものです。

一人前600円。きなことあんのほかに、からみもちも最高!
(写真は以前の旅で撮ったもの)
手入れの行き届いた清潔な店内。静かな空間です、この日は入ってないけど。

そんな記憶を頼りに、府中宿(静岡)の街をさっさと通り過ぎ、お目当ての「せきべや」の前に到着。営業中の札を見て、ほっとひと安心。BD-1に鍵をかけ、ハンドルに装着していたカメラバッグを取り外し、いざ店内へ。

と、あの無愛想なおじさんが、プハーッとお店の前で一服中ではないですか。そして営業中の札が裏返しに……。

遠くの山の感じから、このあたりが浮世絵ポイントとしました。

府中宿の浮世絵ポイントは、安倍川を渡った先にあります。

●GoProからの1枚

休憩&エネルギー補給ポイントを失って、半ばやけになって安倍川を横断中。

注:〈  〉内は交差点名を表します。

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