ART of house _未完箱

コンクリートの気泡とダニエル・アーシャムとLiSA

コンクリートは時の移ろいを表現する

ドイツ本国からのリリースの写真を見た時に、ピンと来ました。

その写真とは、2019年にダニエル・アーシャムが、「992」世代のポルシェ911にポスト・アポカリプス的(終末的)デザインを適用した作品です(と書いていて、写真も見たことない人には、言葉ではまったく意味が伝わらないのですが、そこはスルーで)。

この911の現物が展示されているというので、2020年12月、タイカンのミニ試乗会に参加してきました。

現物にて、写真では表現できない脆さや儚さをリアルにこの目で確認することができました。そして、アーシャムが表現したかった「時の移ろい」も。

もちろん、リアルに「経年」を表現したいのならば、「古美」という技法を用いるのでしょうが、あくまでも現代アートなので、コンセプチュアルにとらえるには、ピカピカの新車のようなクルマが結晶化しているほうがインパクトあります。

という、私の感想はさておき、ピンと来たのは、竣工当時の未完箱で感じたものと同じだったということです。

無理して均一化しなくて、いいんです!

未完箱は断熱材があらかじめセットされたプレコンを外壁として使用していますが、室内は打放のコンクリートです。最近の著名な美術館にあるような、なめらかな壁を目指していなかったので、化粧型枠を使っていません。打放では使わない、本来ならば壁の表面になんらかの仕上げ材を施す、普通の型枠を用いています。その方がローコストであるというメリットもあったからです。

イメージとしては、東孝光の「塔の家」ほどの荒々しさではなく、もう少しつるんとした感じ。昭和40〜50年代に建てられたマンションをリノベーションした際に、壁の仕上げ材をすべて取り払ったようなイメージです。

竣工した未完箱の内部は、新築なのに、すでに時間の経過を内包していました。その理由は簡単、打放の壁が、いい具合なのです。壁の気泡や型枠によっての色の違いは意図してできたものではなく、すべてが偶然によるもの。壁全体が均一ではないために、あたたかみさえ感じられてしまうほどです。

「気泡」と「色違い」。そのどちらも本来は歓迎されないもの。しかし、リノベしたマンションがそうであるように、これが時間の経過を感じさせるのです。

特に気泡は、場所によっては洞窟の鍾乳石のようでもあり、人工的なコンクリートなのに、自然の洞穴のような雰囲気をも醸し出しているのです。

なので、埋めて補修するのではなく、そのまま放置して愛でております。

気泡ではありませんが、こうした瑕疵もいい具合に味があります。

そして、この未完箱のコンクリートの気泡と、ダニエル・アーシャムの作品が、オーバーラップしたのでした。現代アートと違って、最初から狙って作ったものではありませんが、結果としては近いものを表現したことになります。

柳宗悦風にいうならば、作り手の作為が含まれていない分だけ、真の「美」が感じられるのかもしれません(モノはいいようですね)。

まずは鬼滅の刃の楽曲でも聴いてみるか……

……ということは、どうでもよくて、先日テレビでLiSAがコンクリート愛を語っておりました。彼女は、街角で見かけるコンクリートを、愛機のライカで撮影しているようです。自分も学生の頃はよく、コンタックスTVSにT-MAX400のフィルムを装塡して、いろんなコンクリートやアスファルトを撮影していたので、とてもシンパシーを感じてしまったのでした。

息子が以前からLiSAの曲を聴いていたので、なんとなく楽曲は耳にしていたのですが、自分とは遠い存在のアーティストでした(1人ドライブの際、車内では聴かないという意味で)。

しかし、TV番組で披露したコンクリートとカメラ好きというエピソードで、一気に身近なアーティストに。たったひとつふたつ、美意識でシンパシーを感じられると、その人の作品自体を好意的に受け取れるようになるのって、不思議です。

意図しては決してできない、こうした「ずれ」も、ライティングによって陰影ができて、それもまたいいのです。

番組中、誰かが、「今までで一番のコンクリートはどこですか?」的なことを訊いてましたが、同じコンクリートでも陽の差し込み方や季節などの諸条件で、まったく表情が異なるので、一概にどこが一番なんて答えられるわけないだろー! と、彼女に代わって心のなかで叫んでおりました。コンクリート愛があればあるだけ答えづらい質問だったりするのです。

そういえば彼女は、多感な時期を沖縄で過ごしたみたいなので、それもコンクリート愛に繋がっているのかもしれません。

そこで、自分のコンクリート愛のルーツは……と、ちょっと考えてみるのでした。

竣工当時、子どもたちがまだ幼かったこともあり、こうした鋭利な角や、さらに角にできた気泡が危ないと家人は心配してましたが、子どもたちが怪我をすることなどありませんでした。

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