旅に出られないときは、書くことで気晴らしをする
2020年はコロナ禍の影響のために、あまり外出することができませんでした(とはいえ、GoToトラベルの際に、日光街道と奥州街道をBD-1で走破したのですが)。
2021年もその影響は続きそうで、今年中に以前のような生活スタイルには戻れそうもありません、きっと。計画を立てていた旅は、早々実現できそうもないと見ておいて間違いないでしょう。
そんな2021年の幕開けだったからか、新年最初に読了したのは旅の本でした。
こういう状態を一時的ではあるが救済する方法として、書くという作業がある。体験をもう一度なぞってみることである。さいわい、こんなことにもなろうかと、車中で書いたメモがある。汽車のなかは時間が十分あるにもかかわらず案外メモはとりにくいもので、断片的なものでしかないが、それを見れば、書かなかったことまで思い出してくる。(P23)
『汽車旅12カ月』宮脇俊三/河出文庫
筆者は宮脇俊三さん。国鉄全線完乗を達成した後、仕事への情熱も含めてテンションが下がってしまっていた時に、鉄道旅行の本を書き下ろすことを勧める人が現れ、原稿を書くことで体調もよくなったそうなのです。
自分も五街道をBD-1で完走した後、やっぱり少なからず興味の対象がなくなったことで、気分が落ちてしまいました。体調が悪くなるほどではありませんでしたが、コロナ禍がいつまで続くのだろうと考えると、当面、好きに旅をすることもままならず、気分も塞ぎがちに。
でも、大丈夫。街道旅の模様をブログにアップするという作業がありました。「こういう状態」とは、私にとってはコロナ禍の世の中のこと。ブログに旅の記憶を書き綴ることで、旅した思い出が蘇り、ステイホームしていても気分が晴れるというわけです。
自分の旅のテーマは「道」です
宮脇さんにとっての旅は、汽車旅。つまり「線路」です。
私にとっての旅は、車輪旅。二輪でも四輪でもかまいません。テーマは「道」です。そのうちブログにでもアップしようと思っていた「道」の旅を記事化することで、旅に出た気分に浸ってみようと思ったのでした。
ザッと思い出すだけで、まだブログでコンプリートしていないのは、次の通り。
・東海道旧道:BMW i8
・中山道旧道:BD-1
・中山道旧道:E30M3
・甲州街道:BD-1
・甲州街道:ベントレー・コンチネンタルGT
・日光街道:BD-1
・奥州街道:BD-1
・グランドサークル一周:BMW X3
このほか、酷道425(ベントレー・ベンテイガ)とか、日本各地の風光明媚な道もたくさん残っています。アヴェンタドールSVでの京都旅、BMW7シリーズでの九州・平戸旅、マクラーレン570GTでの伊豆半島縦断旅、フェラーリ・カリフォルニアでの東京〜三ヶ根山スカイライン、マセラティ・グラントゥーリズモでの九州〜四国旅……、ああ、いくらあっても書き切れません。
現在はこういった個人的な気晴らしを執筆して、本にしなくても、気軽に勝手に発表できるので、よい世の中になったものです。
不急不要の旅はお預けで
気分的にも経済的にも、不急不要の旅行はやめましょう、といった戦時中の標語みたいな空気に包まれて四月を過ごす。(P82)
『汽車旅12カ月』宮脇俊三/河出文庫
宮脇さんの場合は、もちろんコロナは関係なく、単に自分の懐具合でのことなのですが、「不急不要」という言葉が戦時中を思い起こさせるところに、時代を感じさせませます。いまは、「不要不急」という言葉で使われていますが、まあ、意味はさほど変わらないでしょう。
そして、「不急不要」などという標語を掲げて玉砕したわけですが、あれから75年、「不要不急」のお出かけはお控えくださいませ、なんて、心からは思っていない政治家の言葉がTVでリピートされるこの国は、きっと再び……(以下自粛)。
話は逸れてしまいましたが、戦後、自由に汽車旅をできるようになった際の宮脇さんは、とてもうれしかったにちがいありません。と、いうことは、コロナを完全に乗り越えた先にある二輪&四輪旅は、これまで以上の感動を与えてくれそうです。
この文庫は、一月から十二月まで、汽車旅のエピソードが月別に書かれています。ラストの十二月の章では、熊本から阿蘇を抜けて大分へ向かう豊肥本線が描かれています。そこで書かれている阿蘇の描写が、中学生の頃に2度、阿蘇山に自転車で登った時の景色とオーバーラップしたのでした。たぶん、宮脇さんが見て描写した景色と、私が見た景色の時間差は、10年ほどでしょう。そう考えると、なおさら感慨深いものを感じてしまいました。
BD-1で走破するリストに、九州一周というのがありますが、その際はせっかくだから、寄り道して阿蘇山も登ってみようかなと思うのでした。
ということで、BD-1旅は、テント泊ではなくて、これまで通りのビジネスホテル泊にしようと思った一冊。
『汽車旅12カ月』宮脇俊三/河出文庫