ART of photo_カメライフ

未来を暗示する写真

2011.01.26@シチリア

パレルモ空港に到着して、最初に与えられたミッションは、アウディA6を運転して宿泊地である海沿いのホテルへ向かうことだった。

たまたま大学時代のサークルの後輩とペアになったので、先輩として余裕を見せるためにも、後輩に運転席を譲ることにした。A6であったので、後部座席の座り心地を試してみるとかなんとか理由をつけて、リアシートで寝ていてもよかったのだが、あいにく、クルマで一番落ち着くシートは運転席で、その次が助手席なので、自然とナビシートに落ち着いてしまった。

純正ナビにはあらかじめ目的地であるホテルが登録されていて、ナビに従って運転するだけだ。後輩は真面目なので、シチリアに到着したばかりなのに、さっそくクルマのインプレッションを、というわけなのである。頭が下がる思いであった。

自分はといえば、いつものようにカメラを持ち、なにか面白いものが撮れないか、そちらの方にばかり関心がむかっていた。運転していると撮影したい景色に出会っても、当然ながら撮影することは叶わないわけで、助手席だとそれができるというわけである。

前方に同じホテルを目指すA6が走っていて、その後ろ姿を見ていたら写真に収めたくなった。編集者というものは、写真を一枚の写真として見ることはあまりなく、「見開き裁ち落としで使ってみよう」とか、「本文とキャッチはこの辺に配置して……」とか、そんなことばかり考えながら写真を撮ってしまう悲しい性がある。

この時も「見開きで使ったら、ちょうど本文を2段分、道路の上にのせられるな」などと考えながらシャッターを切ったのである。

逆光気味のためクルマ自体はあまり判然とせず、デイライトの赤く点灯しているテールライトだけが印象的だった。「シチリアの高速をA6で走ってみた」的な内容の文章を書くとしたら、ひょとしたら使えるかもしれない。前のクルマを運転しているのは誰だか知らないし、少なくとも私は運転していないけれど、帰路の高速道路を運転すれば、まあ、インプレッションの内容は同じになるだろう、きっと。

その前に、そもそも多くの場合は、こうして撮った写真が使われることは、まずない。

そしてもちろん、この写真も誌面で使われることはなかった。というか、忘却の彼方であった。

もし、覚えていたとしても、新車を紹介する記事であるので、きちんとクルマのボディデザインが分かるような写真で解説をしなければならないし、ページ数は決まっているのに、こんな写真1点で2ページも割いてしまうことなどできない。

メーカー様からのご招待であるので、そんな情緒に任せた写真は使うことができないのである。

帰国後、これと同じ型のA6には何度か乗ったのだけれども、いまひとつ、ダッシュボードのデザインやシートのテクスチュア、インテリアの香りなど、記憶の輪郭がぼやけてしまっていて、はっきりと思い出すことができない。

つまり、シチリアに到着して最初に撮った写真のなかのA6と同じだった、ということである。写真は未来を暗示することがあるが、まさにそうした一葉。

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