ART of book_文庫随想 ART of work_編集者の憂鬱

『自然と人生 思うままにⅡ_四方よしが理想』

ネタは現場に落ちている

出版不況と言われて久しいですが、その大きな理由としてよくあげられるものに、インターネットの普及があります。情報を得るためだけなら、もはや雑誌ではなくSNSなどで十分ということでしょう。つまり、出版不況とは、雑誌不況ということです。書籍は実際のところそうでもないようです。

しかし、雑誌が売れないのは果たしてそれだけでしょうか?

最初に就職した版元は建築雑誌でした。締め切り前でもないのに日中に編集部にいることは、言うなればダメな編集者という雰囲気があり、実際そうでした。
ワークショップや展覧会、発表会……に実際に足を運び、いろんな人から話を聞いてくることが大切だったのです。現場からのリアルな話は、いま何が求められているかに直結しています。つまり、特集に反映すれば雑誌が売れるということになります。
ネタは現場に落ちている、というやつですね。

しかし、最近のサラリーマン編集者は、朝出社してタイムカードを押して、デスクに向かってないと、サボっていると経営サイドに判断されてしまいかねないので大変です。ニュースソースは、ネット検索です。ネットで手に入れられる情報から誌面に落としていくわけですから、雑誌の売れ行きの結果は一目瞭然です。

長くクルマ雑誌に携わってきましたが、メーカーやインポーターから送られてくるリリースに加え、案内が届く発表会と試乗会だけで、実はかなりのページを埋めることができます。与えられる情報だけで雑誌ができてしまうのです。

雑誌が売れない理由

あくまでもこれは極端な一例ですが、雑誌が売れないのには、作っている側の意識にも問題があるということです。

出版という仕事は、今は石としかおもわれないものにダイアモンドを認め、それを世間にしらしめるものだと私は思う。それがまた書店の経営を安定させることになる。だだの石はいつまでたっても石にすぎない。それをダイアモンドと見せかけて大々的に宣伝しても、宣伝が終われば元の石に戻る。それが宣伝の限界である。

とはいえ、広告費を頂き、自分が本当にオススメできるダイアの原石──否、もうダイアモンドかもしれませんが──を誌面で紹介して、それが読者の知るところとなり読者も満足、クライアントも満足、そして版元も満足というのが、編集者のお仕事として最高なんですけどね。これはあくまでも商業誌の編集者としてですが。

買い手(読者)と売り手(クライアント)と売り手(版元)の三方よし、とでもいいましょうか(もちろん、社会貢献もできれば、それこそ四方よし、ということで最高であります)。

このごろ自分の直観でダイアモンドの原石を見分けられているだろうか、と自分を見つめ直すのに役立った1冊。

『自然と人生 思うままにⅡ』梅原猛/文春文庫

人生とは、富士山を登っていくようなもの……?

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