ART of book_文庫随想

『スローな旅にしてくれ_冒険野郎の原点は?』

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『ツバメ号とアマゾン号』が好きな人は、旅好きです(たぶん)

もう何年も昔のことです。息子が保育園に通っているときに、担任の保育士さんから、「ニシヤマさんが幼い頃に読んだオススメする本、教えてください」と尋ねられたことがあります。

夏は海、秋は山、冬はスキーにスケート……という園外活動が盛んな保育園です。これはもうアーサー・ランサムしかないと思い、『ツバメ号とアマゾン号』を推しました。

これにハマれば、全12巻の虜になることは間違いありません。

C・S・ルイスのナルニア国物語もありましたが、三戸浜でのキャンプをはじめとする園外活動が『ツバメ号とアマゾン号』を読めば、冒険になるのではないかと思ったのです。

しかし、私が夢中になったのは小学6年生か中学1年の時。大人の先生が読んで、果たして面白く感じたか否か。

その後を聞いていなかったので、気がかりではありました。

“先日、世界児童文学全集29『ツバメ号とアマゾン号』(岩波書店)を読んだ。これがなかなか面白い小説で、あっという間に読み終えてしまったが、今回の話はこの小説のことではない。この『ツバメ号とアマゾン号』を教えてくれたのたのは、数年前カトマンズで会った、とある旅行者だった。僕は読みながらその人のことを思い出していた。”(P137)

おおお、そうかそうか、蔵前さんが読んで面白かったということは、きっと大丈夫。心に引っかかっていたものがひとつ、これでなくなりました。

ところで、蔵前さんの作品を読むのは初めて。きっとどこかでその名前は目にしたことはあったはずですが、タイトルで思わず手に取ってしまった次第です。(その後、蔵前さんが旅の雑誌の発行者で、その雑誌から育っていったライターの本を読んでいたことを知り、やはりどこかでそのお名前だけは拝見していたことが判明しました)

私も編集者であることはもちろん、自分の文章が活字になる職業の身ゆえに、文体や読後感など、やっぱり人の書いた文章は気になってしまいます。

最近読み漁った紀行文(旅の本)は、執筆者の個性が滲み出ているものが多く、「こんな人もいるんだな」という気持ちで読み進めたものが大半でした。

個性というより人間性。ありのままに吐露するのは勇気のいることですが、読んでいて、ピタッと心に寄り添わないものが多かったように思います。

蔵前さんのエッセイは、読み始めはアクがなくてパンチに欠けるようですが、人となりが掴めてくると、安心してページをめくることができたのです。癒されるというか、なんというか。

そんな風に感じ始めていた本書の後半で、冒頭に触れたように蔵前さんが旅先で出会った人に勧められて『ツバメ号とアマゾン号』を読んだくだりが登場するのです。

エッセイの醍醐味は、本題とは関係ない掴みの一文に、作者の人となりを知ることができる点です。『ツバメ号とアマゾン号』が心にしっくりくる人は、きっと旅が好きな人なのでしょう。

気取ってる人は要注意です

こんな蔵前さんなのですが、旅人としての経験が豊富なだけに、なんちゃって系にはこと厳しい。この指摘にはすごく共感してしまいます。

“あいかわらず「放浪」を謳い文句にした旅の本は多いし、ちょっとした旅にも「放浪」と呼ぶ人は多いが、こういう「放浪」とは、パックツアーじゃないだけだったりする。一時ちょっと上手、少し有名というだけで、「カリスマ」と呼ぶのが流行ったのと同じで、なんとなく便利な言葉だったのだ。今となっては、ムキになって「放浪ではない」と否定したのがばかばかしいぐらいであるが、それでも「放浪」気取りの作家の書くことは今でもまったく信用していない”(P93)

「放浪」気取りぐらいならまだマシかもしれません。一応、原稿が書けるくらいの文章力はあるのですから。

それより作家気取り、ジャーナリスト気取り、エッセイスト気取り、ライター気取り……という(以下自粛)。いまなら●●●●ソムリエ、って感じですかね。

と、まあ、蔵前さんの優しい視線の文章を読んでいて、ついつい辛口になってしまいましたが、ひょっとしたら蔵前さん、高校の先輩になっていたかもしれません。

中学の時に、父が鹿児島に転勤になったとき、家族会議の結果、単身赴任してもらうことになりました。

理由は、火山灰が降って大変なところでは暮らしたくないから。きっと鹿児島に引っ越していたら、間違いなく蔵前さんの通った高校に行くことになっていたはずです。

引っ越しが多くて、自分のことをデラシネだと思っていましたが、九州出身というだけで、不思議と親近感が湧いてしまうのって、きっと歳をとったということなのでしょう。

職業を尋ねられたら、編集者ではなく、会社員と名乗ろうと思った一冊。

『スローな旅にしてくれ:蔵前仁一/幻冬舎文庫』

肩の力を抜いた旅、がイラストからも伝わります。
「間切る」という単語は、このシリーズで覚えました、ヨットは操れませんが。

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